家庭用エアコン(壁掛形)の新しい省エネ基準は、2027年度が目標年度です。ただしこれはメーカーや輸入事業者に向けた基準で、出荷台数で平均(加重調和平均)した効率が目標に届いているかで達成を判断する仕組みです。2027年4月に旧基準の機種が一斉に販売禁止になる制度ではありません。いま使っているエアコンも、そのまま使い続けられます。
一方、大手メーカーが新基準に合わせた機種へ切り替える方針を示しており、報道では販売価格の上昇が見込まれています。ただし値上がり幅を示す公的なデータはありません。今買うか来年買うかは、値上がりの予想よりも、①今のエアコンの年数と不調の有無、②ラベルの「省エネ基準達成率」、③工事費と処分費を含めた総額、④自治体の補助の期限で判断するのが確実です。本記事では、基準の中身、費用の内訳、電気代の差の試算、補助、複数台をまとめて買うときの支払い方を順に説明します。
目次
エアコンの省エネ基準は、省エネ法の「トップランナー制度」で決められています。資源エネルギー庁の省エネ性能カタログは、この制度を、エネルギーを多く使う機器ごとに目標基準を定め、それを満たすことを製造事業者・輸入事業者に求める制度と説明しています。基準値は、その時点で最も効率の高い製品や技術開発の見通しを勘案して決めることが法律で定められています(省エネ法第149条)。
資源エネルギー庁の資料によると、経済産業省は2022年5月にエアコンの告示を改正し、家庭用エアコンの新しい目標年度を壁掛形は2027年度、壁掛形以外とマルチタイプは2029年度と定めました。家庭で一般的な壁掛けの1台1室タイプが2027年度の対象です。2021年の審議会資料では、新製品の開発に通常2〜3年かかるため、告示施行の2022年度から開発サイクル2回分の5年後を目標年度にしたと説明されています。
対象は冷暖房兼用のセパレート形で、範囲は従来と同じです。変わったのは区分の分け方です。旧基準は形態・冷房能力・室内機の寸法(寸法規定/寸法フリー)の組み合わせで13区分でしたが、新基準は形態・冷房能力・仕様(一般地/寒冷地)の組み合わせで10区分になりました。寸法による区分は廃止され、寒冷地向けの区分が新設されています。壁掛形は「冷房能力2.8kW以下」と「2.8kW超28.0kW以下」に分かれ、それぞれ一般地仕様と寒冷地仕様の基準があります。
基準の物差しは通年エネルギー消費効率(APF)です。APFは、冷房期間と暖房期間を通じてエアコンが部屋から取り除いた熱と加えた熱の合計を、同じ期間の消費電力量で割った値です。数字が大きいほど、同じ冷暖房をより少ない電力でこなせます。新基準ではAPFの測定方法が日本産業規格JIS C 9612の2013年版に変わり、冷房の高負荷時の外気温条件を33℃から35℃にするなど、試験条件も見直されました。このため、旧基準のAPFと新基準のAPFは単純に比べられません。
表:壁掛形エアコンの2027年度目標基準値(APF)
| 定格冷房能力 | 一般地仕様 | 寒冷地仕様 |
|---|---|---|
| 2.2kW・2.5kW・2.8kW | 6.6 | 6.2 |
| 3.6kW・4.0kW | 6.6 | 6.2 |
| 4.5kW | 6.5 | 6.1 |
| 5.6kW | 6.3 | 5.9 |
| 7.1kW | 5.9 | 5.5 |
出典:資源エネルギー庁「省エネ性能カタログ2025年版」(2.8kW以下)、日立「家庭用エアコンディショナ—の省エネ目標基準値について」(2.8kW超は算定式による代表値)(2026年10月15日確認)
達成の判断は1機種ずつではありません。2021年の審議会資料では、メーカーごと・区分ごとに、出荷した機器のAPFを出荷台数で加重調和平均した値が、基準値の加重調和平均を下回らないことを求めると説明されています。効率の低い機種があっても、全体の平均で基準を満たしていれば達成です。
達成が大きく不足する場合の手続きは、省エネ法第150条にあります。一定の生産量・輸入量があるメーカーに対し、経済産業大臣は性能の向上を勧告でき、従わなければ公表、正当な理由なく措置をとらず省エネを著しく害すると認めるときは命令ができます。命令に違反すると100万円以下の罰金です(第174条)。つまり、規制を受けるのはメーカーであり、店頭に並ぶ個々の機種の販売を一律に禁止する規定ではありません。パナソニックも、現在使っているエアコンを買い替える必要はないと案内しています。
「安い機種が消える」という話は、平均で基準を満たすために、メーカーが効率の低い機種を減らすだろうという予測から来ています。根拠になりそうな数字として、省エネ性能カタログ2025年版には、冷房能力4.0kWの代表機種のAPFが2024年に平均5.8、最小4.9、最大7.4だったというグラフがあり、同じ図に2027年度の目標基準値6.6が示されています。図の上では平均値が目標基準値を下回っており、メーカーが平均で基準を満たすには、効率の高い機種の比率を上げる必要がありそうです。
実際の動きとして、秋田魁新報(2026年7月7日)は、三菱電機、ダイキン工業、ゼネラルの大手3社が今秋以降に発売する全機種を新基準に適合させる方針で、部品改良や大型化に伴い販売価格は上昇する見込みだと報じています。パナソニックも、省エネ性能の向上に伴い販売価格が上がる可能性があると説明しています。
一方で、何円上がるかを示した公的な資料はありません。エアコンの多くはメーカー希望小売価格のないオープン価格で、店頭価格は時期や在庫、販売店によって変わります。ネット上の「○万円の機種がなくなる」といった数字は予測として受け止め、自分が買う能力帯の機種を、達成率と総額で比べるのが現実的です。
2026年10月時点で判断材料を整理すると、次のようになります。今年度中に買う場合は、東京都のように補助の受付期限が2027年3月末までの自治体がある点が大きい一方、店頭には新基準を満たす機種とそうでない機種が混在しています。来年度に買う場合は、新基準に合わせた機種が中心になると見込まれますが、価格は上がる可能性があり、補助制度が続くかどうかも未定です。
表:今年度中に買う場合と来年度以降に買う場合の比較
| 比較項目 | 2027年3月までに買う | 2027年4月以降に買う |
|---|---|---|
| 基準の位置づけ | 2027年度基準のラベル表示はすでに始まっている | 目標年度に入り、メーカーの達成状況が問われる |
| 選べる機種 | 新基準を満たす機種と満たさない機種が混在 | 新基準に合わせた機種が中心になる見込み(報道・推定) |
| 本体価格 | 低価格帯の機種がまだ選べる | 上昇の見込み(報道・推定、幅は不明) |
| 補助(東京都の例) | 2027年3月31日まで(予算消化で早まる場合あり) | 継続するかは未定 |
| 電気代 | 達成率の低い機種を選ぶと高くなりやすい | 効率の高い機種が中心で抑えやすい |
出典:資源エネルギー庁資料、東京ゼロエミポイント公式サイト、秋田魁新報(2026年7月7日)をもとに作成。価格と機種構成の見通しは報道・推定(2026年10月15日確認)
今のエアコンが10年以上使っていて冷えや暖まりが悪い、運転音が大きくなったという場合は、夏や冬の繁忙期に故障して工事待ちになる前に、補助が使える今年度中に買い替える選択肢が有力です。省エネ性能カタログによると、エアコンの平均使用年数は14.2年です。逆に、購入から数年しかたっていない機種を、値上がりを心配して前倒しで買い替える理由は乏しいといえます。
買い替えの総額は「本体価格+標準取付工事+追加工事+古いエアコンの取り外し+リサイクル料金と収集運搬料」です。本体価格は店頭や見積りで比べる項目なので、ここでは料金表を公開している販売店の一例として、コジマネットの工事費を示します。
表:エアコン工事費の一例(コジマネット、税込)
| 項目 | 条件 | 料金 |
|---|---|---|
| 標準取付工事 | 2.2〜3.9kW | 16,500円 |
| 標準取付工事 | 4.0〜4.9kW | 20,900円 |
| 標準取付工事 | 5.0kW以上 | 23,100円 |
| 既存エアコンの取り外し | 室外機が地面・ベランダ | 5,500円 |
| リサイクル料金+収集運搬料 | 買い替え時 | 550円〜+2,200円 |
| 専用回路増設 | 配線10mまで | 16,500円 |
| 配管延長 | 1mごと | 4,950円〜 |
| 室内の配管カバー | 新規、直管2m・出口1個まで | 11,000円 |
出典:コジマネット「エアコンの取り付け工事費用詳細」「エアコン工事追加料金 概算見積り」(2026年10月15日確認)。料金は販売店ごとに異なります。
標準工事に含まれるのは、配管4mまで(露出タイプのみ)、すでに貫通している配管穴の利用、室内機と同じ階の地面かベランダへの室外機設置、室内機の設置、真空引きです。これを外れると追加工事になります。リサイクル料金はメーカーによって異なる場合があると注記されています。
買い替えで追加費用が出やすいのは、コンセントと配管穴です。新しい機種が200Vで、今のコンセントが100Vの場合は電圧切り替えや回路工事が要ります。配管穴を新しく開ける場合、同社は法令で義務化された石綿(アスベスト)の事前調査費用3,850円を加算しており、着工日が2006年8月31日以前か不明の建物では石綿対策工事費12,100円も加わります。室外機を屋根や壁面、2段置きにする場合や、室内機と室外機の階が違う場合も追加料金の対象です。
見積書では、能力(kW)と電圧、標準工事の範囲、追加工事の項目ごとの金額、取り外しとリサイクルの有無、延長保証の有無と料金を確認してください。本体が安くても追加工事で総額が逆転することがあるので、比べるときは工事込みの総額で並べるのが基本です。賃貸住宅で穴あけや専用回路の工事をする場合は、事前に家主や管理会社の承諾が必要です。
年間の電気代は「期間消費電力量(kWh)×電気料金単価」で計算します。統一省エネラベルに表示される年間の目安電気料金について、全国家庭電気製品公正取引協議会は2022年7月22日に目安単価を31円/kWh(税込)に改定しています。ただし、資源エネルギー庁のラベルガイドブックや省エネ性能カタログ2025年版のラベル例は27円/kWh相当で計算されているため、資料の金額を比べるときは単価をそろえる必要があります。
省エネ性能カタログ2025年版によると、冷房能力2.8kW(10畳程度)の代表機種の期間消費電力量は、2024年の平均で冷房251kWh、暖房607kWh、合計858kWhです。同じカタログには、2027年度基準の達成率112%・APF7.4の2.8kW機のラベル例があり、期間消費電力量は716kWh、目安電気料金は19,300円と表示されています(716kWh×27円に相当)。
表:2.8kW機の年間電気代の試算(31円/kWh)
| 比較対象 | 期間消費電力量 | 年間電気代 |
|---|---|---|
| 2024年の代表機種の平均 | 858kWh | 約26,600円 |
| 達成率112%・APF7.4のラベル例 | 716kWh | 約22,200円 |
| 差 | 142kWh | 約4,400円 |
※筆者試算。前提:省エネ性能カタログ2025年版の期間消費電力量に、目安単価31円/kWh(税込)を掛けた値。858×31=26,598円、716×31=22,196円。東京の外気温を前提にしたJISの条件での値で、実際の電気代は地域、使用時間、設定温度、住宅の断熱性能、契約する料金プランで変わります。
差額は1台あたり年4,000円台で、本体の価格差を電気代だけで取り戻すには長い年数がかかる場合があります。10年使うと約4万4,000円になる計算ですが、これも上記の前提が続く場合の試算です。使う時間が長い部屋ほど効率の差が効くので、リビングなど長時間運転する部屋は達成率の高い機種、来客用の部屋など使用時間が短い部屋は価格を優先する、という分け方も合理的です。
省エネ性能の高い家電への買い替えに補助を出している自治体があります。東京都の「東京ゼロエミポイント」は、都内の住宅に設置済みのエアコンなどを省エネ性能の高い製品に買い替えた都民に、登録販売店の店頭で値引きする形でポイント(1ポイント=1円)を付与する制度です。申請は販売店が行い、個人は申請できません。都の同種の助成金とは併用できません。
表:東京ゼロエミポイントのエアコンの付与ポイント(値引き額)
| 区分 | 省エネ性能(目標年度2027年度または2029年度) | 2.4kW未満 | 2.4kW以上3.6kW未満 | 3.6kW以上 |
|---|---|---|---|---|
| 通常の買い替え | 多段階評価点2.0以上2.9以下、またはAPF5.8以上6.5以下 | 9,000 | 10,000 | 23,000 |
| 通常の買い替え | 多段階評価点3.0、またはAPF6.6以上 | 15,000 | 18,000 | 23,000 |
| 製造から15年以上の機種からの買い替え | 多段階評価点2.0以上2.9以下、またはAPF5.8以上6.5以下 | 20,000 | 30,000 | 40,000 |
| 製造から15年以上の機種からの買い替え | 多段階評価点3.0以上、またはAPF6.6以上 | 50,000 | 60,000 | 70,000 |
出典:東京ゼロエミポイント公式サイト「事業概要」(2026年10月15日確認)。このほか、高効率機の新規購入は10,000ポイント、満65歳以上または障害者手帳を持つ都民が多段階評価点3.0(またはAPF6.6以上)のエアコンを買う場合は80,000ポイントです。
対象となる販売期間は2027年3月31日までで、予算の消化状況で早まる可能性があると明記されています。補助を使うなら受付期限と予算の残りを先に確認してください。15年以上使った機種からの買い替えでは、製造年を証明する書類の提出が必要です。東京都以外でも、市区町村が独自に省エネ家電の買い替え補助を実施している場合があります。条件や期間は自治体ごとに違うため、住んでいる自治体の公式サイトで確認してください。
1台の買い替えで、手元の預貯金から払える金額なら、ローンを使う必要はありません。利息や手数料の分だけ総額が増えるためです。生活防衛資金を大きく削らずに払えるかどうかを先に確認してください。
一方、3〜4部屋分をまとめて替える場合は、台数分の本体、工事費、処分費が重なり、一度に払う金額が大きくなります。支払い方には、販売店の分割払い(ショッピングクレジット)、クレジットカードの分割払い、銀行などのフリーローンがあります。店舗の分割払いは、手数料無料のキャンペーンが使えればそれが最も安くなります。手数料がかかる場合は、実質年率と支払総額を確認し、フリーローンの総額と比べてください。
表:元金60万円を36回で返す場合の総額の試算
| 実質年率(仮定) | 毎月の返済額 | 支払総額 | 利息・手数料 |
|---|---|---|---|
| 0%(手数料無料) | 約16,667円 | 600,000円 | 0円 |
| 4% | 約17,714円 | 約637,700円 | 約37,700円 |
| 12% | 約19,929円 | 約717,400円 | 約117,400円 |
| 15% | 約20,799円 | 約748,800円 | 約148,800円 |
※筆者試算。前提:元金60万円は複数台分の本体・工事費を想定した仮の金額。元利均等返済、毎月返済額=元金×月利÷(1−(1+月利)^−36)、月利=年率÷12。金利は仮定で、実際の条件は申込先と審査で決まります。
同じ60万円でも、年率4%と15%では利息に11万円以上の差が出ます。電気代の差(1台あたり年4,000円台の試算)よりも、金利の差の方が大きくなることもあります。分割にする場合は、毎月の返済額だけでなく支払総額で比べることが大切です。
まとめて買い替える金額が大きく、販売店の分割払いとフリーローンのどちらが得か比べたいときは、CrowdLoanで複数の金融機関からの提案を比較する方法があります。提示される金利や借入可能額は目安で、実際の条件は各金融機関の本審査で決まり、個人差があります。審査の通過や特定の金利を保証するものではありません。店舗の手数料無料の分割払いが使えるなら、そちらと総額を並べて判断してください。
省エネ法の仕組みは、メーカーごとに出荷台数で平均した効率を基準と比べ、大きく不足する場合に勧告・公表・命令を行うものです。個々の機種の販売を一律に禁じる規定ではありません。ただし、メーカーが新基準に合わせて機種を入れ替えるため、達成率の低い機種は店頭から減っていくと見込まれています。
統一省エネラベルの「目標年度2027年度」の表示と「省エネ基準達成率」を見ます。達成率が100%以上なら、その機種は2027年度の基準値以上のAPFです。星の数は多段階評価点(5.0〜1.0の0.1刻み)に応じた表示で、★3つは3.0〜3.4に当たります。
新基準では寒冷地仕様の区分が新設され、基準値は一般地仕様より低く設定されています。たとえば2.8kW以下では、一般地仕様が6.6、寒冷地仕様が6.2です。寒冷地向けのエアコンを選ぶ場合は、寒冷地仕様のラベルで達成率を確認してください。
壁掛形以外(天井埋込カセット形、壁埋込形、床置形)とマルチタイプの目標年度は2029年度です。2027年度の基準が対象にしているのは壁掛形です。
家電リサイクル料金と収集運搬料、取り外し工事費がかかります。コジマネットの例では、買い替え時の収集運搬料2,200円とリサイクル料金550円から、取り外し5,500円からで、合計8,250円からと案内されています。リサイクル料金はメーカーによって違う場合があります。
調査日:2026年10月15日
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