赤字決算や債務超過の状態でも、事業資金の融資を相談することはできます。日本政策金融公庫には、赤字の事業者も対象に含む融資制度があるからです。信用保証協会にも、経営改善計画を前提にした保証制度が用意されています。
ただし、どの制度も審査があり、借りられると決まっているわけではありません。公庫の制度要件や金融庁の監督指針を見ると、問われるのは赤字が一時的か、返済の原資をどう生み出すかです。
赤字の理由と改善策を数字で説明できるかどうかが、相談の出発点になります。
赤字の中身で金融機関の見方は変わる
同じ赤字でも、原因と今後の見通しで評価は分かれるでしょう。公庫の経営環境変化対応資金は、対象を次のように定めています。「一時的に売上の減少等業況悪化をきたしているが、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる方」です。外部要因による一時的な落ち込みか、事業の構造に原因があるかを分けて説明する必要があります。
減価償却費の扱いも見られるポイントです。公庫の「経営改善計画書策定の手引」によると、キャッシュフローは「経常利益と減価償却費の合計」で簡便に計算できます。減価償却費は現金が出ていかない費用なので、帳簿上は赤字でも、手元に現金が残ることはありえます。手引の説明では、このキャッシュフローは借入金の返済原資に充てる資金という位置づけです。
債務超過かどうかも確認の対象です。手引では、負債が資産を上回る状態を債務超過と呼んでいます。帳簿上は資産超過でも、回収できない売掛金や簿外の借入金があれば、実質的に債務超過になるケースがあると書かれています。
金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」も、表面上の数字だけで判断する立場をとっていません。信用金庫と信用組合の項では、小規模事業者は「一時的な要因により債務超過に陥りやすい」と書いています。そのうえで、経営実態を総合的に勘案した与信管理を求めています。
赤字・業況悪化のときに検討できる公的制度
主な制度を、対象と条件の概要で整理します。限度額や期間は各機関の公式ページで確認できた範囲です。
| 制度 |
主な対象 |
限度額・期間 |
| 公庫 経営環境変化対応資金 |
外部要因で一時的に業況が悪化し、売上減少や赤字などの要件に当てはまる方 |
7,200万円。設備資金20年以内(据置3年以内)、運転資金10年以内(据置3年以内) |
| 公庫 企業再建資金 |
活性化協議会などの関与や認定支援機関の支援で再建を図る方、返済条件を変更している方など |
7,200万円(別枠)。20年以内(据置5年以内) |
| セーフティネット保証5号 |
国が指定する業種で、最近3か月の売上高等が前年同期比5%以上減少し、市区町村長の認定を受けた方など |
一般保証とは別枠で2億8,000万円 |
| 経営改善サポート保証(島根県の例) |
認定支援機関の指導などで作成し、債権者全員が合意した事業再生の計画に取り組む方 |
2億8,000万円。15年以内(据置3年以内) |
公庫の経営環境変化対応資金
この制度は、売上の減少だけでなく赤字に関する要件も設けています。たとえば「最近の決算期において、赤字幅が縮小したものの税引前損益または経常損益で損失を生じている方」も対象です。前期が赤字で、最近の決算期に利益が増えた場合の要件も2つ置かれています。利益準備金などを上回る繰越欠損金がある場合と、債務償還年数が15年以上の場合が該当します。
資金使途は、企業維持上緊急に必要な設備資金と、経営基盤の強化に必要な運転資金です。公庫は留意事項として、審査の結果によっては希望に沿えない場合があると明記しています。
保証協会のセーフティネット保証と経営改善サポート保証
セーフティネット保証は、1号から8号の認定を受けた中小企業者向けの保証制度です。認定を出すのは、本店(個人は主たる事業所)の所在地の市町村長または特別区長です。5号は全国的に業況が悪化している業種が対象で、指定業種には適用期間が設けられています。4号は特定地域の自然災害などが対象で、要件は別に定められています。
経営改善サポート保証は、経営改善や事業再生の計画を実行する事業者向けの保証です。島根県の制度融資では、令和9年3月31日保証申込分までの取扱いとされています。保証料率や条件は都道府県や保証協会で異なるため、地元の保証協会で確認してください。
中小企業活性化協議会と405事業
中小企業活性化協議会は、産業競争力強化法に基づき全都道府県に置かれた公的機関です。沖縄県の協議会は、公正中立の立場で無料相談に応じると説明しています。経営改善計画策定支援(405事業)は、認定支援機関の支援で経営改善計画を作るときの費用を補助する事業です。
沖縄県の協議会のページでは、計画策定支援費用などの補助率を2/3としています。計画で金融機関に求める支援の範囲は、同じページ内でも「元金返済猶予や新規融資等」と「条件変更のみ」の両方の記載があります。405事業は2026年5月1日に大幅に改定されたと同協議会が告知しているため、対象となる支援と補助上限は窓口で確認してください。
公庫の企業再建資金
企業再建資金は、405事業を利用して経営改善に取り組んでいる方も対象に含みます。金融機関と返済条件の変更を行っている方も対象です。該当する区分によっては、計画の実行を怠らないことや進捗の報告が要件になります。要件を満たさなくなると、繰上償還を求められます。
返済条件を変更している場合の注意
返済条件の変更、いわゆるリスケの最中は、新たな借入の判断が慎重になりやすいと考えられます。監督指針は、元本の返済猶予などをした貸出金を「貸出条件緩和債権」と定義しています。新規貸出でも、実質的に既存債権の条件緩和を目的とすることが明らかな場合は同じ扱いです。
一方で、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画に沿った貸出金は、貸出条件緩和債権に当たらないと判断して差し支えない、という扱いです。計画の進み具合を見る際は、キャッシュフローの見通しをより重視するのが適当とも書かれています。
リスケ中に新たな資金を相談するなら、まず金融機関と合意できる改善計画を作ることが前提になります。
相談前に準備する資料と返済原資の試算
公庫の手引は、現状把握として売上高や経費の推移、借入金の内容を確認するよう勧めています。税金や社会保険料の納付状況も確認項目です。準備したい資料は次のとおりです。
- 赤字の理由と改善策をまとめた説明資料
- 直近の試算表と決算書
- 月ごとの入金と支払を並べた資金繰り表(実績と今後の見込み)
- 売上・利益・返済の見通しを示した経営改善計画
決算書の準備については
ビジネスローン審査の必要書類を解説した記事も参考になります。公庫の手引は、計画終了時の目安として最終利益の黒字化と資産超過、債務償還年数10〜15年程度を挙げています。
改善後に月いくらの返済原資が生まれるかを、手引の簡便式で試算してみましょう。式は「キャッシュフロー=経常利益+減価償却費」で、月額は年額を12で割ります。税金支払額は簡便式に従い含めていません。年商3,600万円で、減価償却費120万円と支払利息30万円が毎年かかる事業者を想定します。
| 項目(年額) |
改善前 |
改善後 |
| 売上高 |
3,600万円 |
3,600万円 |
| 粗利益(粗利益率) |
1,080万円(30%) |
1,152万円(32%) |
| 経費(減価償却費120万円を含む) |
1,200万円 |
1,110万円 |
| 支払利息 |
30万円 |
30万円 |
| 経常損益 |
▲150万円 |
12万円 |
| キャッシュフロー(経常損益+減価償却費) |
▲30万円 |
132万円 |
| 月あたりの返済原資 |
▲2.5万円 |
11万円 |
値上げで粗利益率を2ポイント上げ、経費を年90万円削る想定です。改善後は月11万円の返済原資が生まれ、改善前より月13.5万円増えます。借入金が1,800万円なら、債務償還年数は1,800÷132で約13.6年(小数第2位を四捨五入)です。この水準でも借入を増やせば年数は延びるため、借りる額は返済原資から逆算してください。
借入だけでなく、仕入先との支払条件の見直しや経費削減も同時に検討する価値があります。税金や社会保険料の納付が難しい場合は、借入より先に税務署や年金事務所へ相談する方法もあります。
公的制度と並べて、民間金融機関の融資条件も比べたい場合は
Tasukari(タスカリ)を使う方法も考えられます。小規模事業者向けの融資マッチングサービスで、保証会社の事前審査は無料です。事前審査の結果を見た銀行から届く提案を、金利や返済期間で比べて選べます。審査は保証会社と金融機関が行い、融資の可否や金利、提案の数を約束するものではありません。
出典・確認先
調査日:2026年10月8日。制度の要件・限度額・取扱期間は改定されることがあるため、申込前に各機関の最新情報を確認してください。
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