運転資金の借入額は、「月商の何か月分」と一律に決まるものではありません。売掛金・在庫・買掛金の残高から所要運転資金を計算し、手元資金や既存の借入で賄えていない不足分を出すのが出発点です。そのうえで、返済に回せるお金から借入額の上限を確かめます。
たとえば月商500万円で、回収に1.5か月、在庫に0.5か月かかり、仕入代金を1か月後に払う事業なら、所要運転資金は500万円です。同じ月商でも回収や支払の条件が変われば、必要額は250万円にも750万円にもなります。以下では、計算式と数値例、借りる額の決め方を順に説明します。
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商品を仕入れて販売し、後から代金を回収する事業では、回収より先に仕入代金の支払が来るのが普通です。この時間差を埋めるお金が運転資金で、J-Net21(中小機構の中小企業支援サイト)は「売上債権+棚卸資産-仕入債務」で算出すると説明しています。
売上債権は売掛金と受取手形、棚卸資産は商品や材料などの在庫です。仕入債務は買入債務とも呼び、買掛金と支払手形を指します。決算書や試算表の残高を当てはめると、売掛金や在庫として事業に固定されているお金の額が出せます。
ローカルベンチマークは、経済産業省が提供する経営分析ツールです。近畿経済産業局の資料では、その指標の一つである営業運転資本回転期間を「(売上債権+棚卸資産-買入債務)÷(売上高÷12)」と定めています。つまり、運転資金が月商の何か月分あるかを示す数字です。
この式を並べ替えると、所要運転資金=月商×(回収期間+在庫期間-支払期間)という簡易式になります。この記事では、3つの期間をすべて月商で割った月数として扱います。在庫や買掛金を売上原価で割って期間を出す方法もあるため、計算の途中で基準を混ぜないでください。
月商500万円、回収1.5か月、在庫0.5か月、支払1か月を基本の例とします。回転期間は1.5+0.5-1で1か月となり、所要運転資金は500万円です。残高で見ると、売掛金750万円と在庫250万円の合計から買掛金500万円を引いた額で、基本式の結果とも一致します。
| パターン | 月商 | 回収 | 在庫 | 支払 | 回転期間 | 所要運転資金 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A 基本 | 500万円 | 1.5か月 | 0.5か月 | 1か月 | 1か月 | 500万円 |
| B 売上が増えた | 600万円 | 1.5か月 | 0.5か月 | 1か月 | 1か月 | 600万円 |
| C 回収が延びた | 500万円 | 2か月 | 0.5か月 | 1か月 | 1.5か月 | 750万円 |
| D 支払が延びた | 500万円 | 1.5か月 | 0.5か月 | 1.5か月 | 0.5か月 | 250万円 |
表の金額は各パターンの数値を簡易式に当てはめた結果で、いずれも端数は出ません。Bは月商が100万円増えた例で、条件が同じでも所要運転資金は100万円増えます。Cは取引先の支払サイトが半月延びた例です。売上が変わらなくても、必要額は250万円増えます。
Dは反対に、仕入先への支払を半月遅らせられた例で、必要額は250万円減ります。在庫期間を0.5か月から0.25か月に縮めた場合も、Aより125万円少ない375万円で済む計算です。期間が半月動くと、必要額は月商の半分だけ増減します。
運転資金の借入は月商の何か月分が目安か、という疑問はよくあります。今回、日本政策金融公庫や中小機構などの公的資料を調べましたが、業種を問わない一律の月数は確認できませんでした。月商の何か月分が必要かは、自社の回転期間で決まります。
前の表のとおり、回転期間はAで1か月、Cで1.5か月、Dで0.5か月です。現金商売で在庫も少ない事業なら、所要運転資金はごく小さくなります。掛売りが中心で在庫を多く持つ事業ほど、月数は大きくなります。他社の目安を借りるより、自社の決算書から回転期間を出すほうが確実です。
所要運転資金のうち、すでに自己資金や既存の借入で賄えている部分は、新たに借りる必要がありません。新しい資金需要として表れやすいのは、Bのような増加運転資金です。売上が伸びると売掛金と在庫が先に膨らむため、黒字でも手元資金が足りなくなります。
増加分は「増えた月商×回転期間」で見積もれます。Bでは100万円×1か月で100万円です。回収条件が悪化したCの場合は、売上が増えていなくても250万円が新たに必要になります。
一方、赤字で出ていくお金を埋める資金は性質が別物です。J-Net21は、赤字の補填や既存借入の返済のために借入を重ねるだけでは、将来の返済負担が重くなるおそれがあると指摘しています。不足の原因が損益の赤字なら、借入額の計算より先に収支の改善策を固める必要があります。
借りる額は「不足額+余裕」で考えるのが基本です。余裕の幅は、月次の資金繰り表で残高が最も少なくなる月を確かめて決めます。日本政策金融公庫は資金繰り表の書式と記入例を公開しているので、それを使えば月ごとの残高を並べられます。
上限は、返済に回せるお金から逆算して決めてください。返済原資の目安は、利益に減価償却費を足し戻した額です。減価償却費は費用として計上されますが、その年に現金が出ていくわけではありません。ローカルベンチマークのEBITDAも、営業利益に減価償却費を足して計算します。
たとえば年間の償却前利益が240万円で、既存借入の返済が年120万円なら、新たな返済に回せるのは年120万円です。5年返済なら元金は600万円、7年返済なら840万円が上限の目安になります。実際には利息や税金も払うため、上限はこれより小さく見積もってください。
個人事業主の場合は、事業の利益から生活費も出ていきます。その分を差し引いてから返済余力を出してください。月々の返済額は、元金均等・元利均等の違いや据置期間の有無でも変わります。
日本政策金融公庫の国民生活事業には、ほとんどの業種の中小企業が使える一般貸付があります。運転資金の融資限度額は4,800万円です。返済期間は5年以内(特に必要な場合は7年以内)で、うち据置期間は1年以内とされています。
利率は基準利率で、返済期間や担保の有無によって異なる利率が適用されます。業種や経営内容によっては利用できない場合があり、審査の結果、希望額に届かないこともある点に注意してください。申込みの前に、計算した必要額と返済原資の根拠を資料にまとめておきましょう。必要書類の全体像はビジネスローン審査の必要書類を徹底解説で確認できます。
数値例のとおり、期間を縮めれば必要な運転資金そのものが減ります。J-Net21が資金繰りを楽にする原則として挙げるのは、売上債権の早期回収、在庫の圧縮、仕入債務の支払期限の見直しの3つです。いずれも借入をしなくても資金を生み出せる方法です。
回収については、売掛金台帳で発生日と回収予定日を管理し、請求漏れや入金遅れを早く見つけます。在庫は定期的な棚卸しで滞留品を把握し、仕入量を適正にします。ただし、取引先との関係や業界の慣行によっては、回収条件をすぐに変えられない場合もあるでしょう。
支払サイトの延長は、相手の合意が前提です。J-Net21も、漏れなく遅滞なく支払って仕入先の信用を得て初めて延長を申し入れられる、としています。見直しで縮められる期間を先に見積もり、残った不足分だけを借りると、返済負担を抑えられます。
必要額と返済余力の見当がついたら、公的制度と並べて民間金融機関の提案も比べてみてください。CrowdLoanが運営するTasukari(タスカリ)は、売上500万〜3億円クラスの法人・個人事業主向けの融資マッチングサービスで、保証会社の事前審査の結果を見た複数の銀行から届く提案の金利や返済期間を比べて選べます。診断と事前審査は無料ですが、審査は保証会社と金融機関が行うため、融資の可否や金利、提案の数は約束されていません。
調査日:2026年10月8日。融資制度の限度額・返済期間・利率や各ページの内容は、今後変更される場合があります。利用前に各機関の最新情報を確認してください。
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