トミー・ジョン手術は、肘の内側側副靱帯(UCL)が傷んだときの選択肢のひとつで、野球肘ぜんぶの治療法ではありません。日本では公的医療保険が使える保険診療として行う医療機関があり、2026年10月7日に確認した公開例では、3割負担の自己負担の目安は25万〜40万円程度でした。さらに高額療養費制度を使うと、月ごとの自己負担額に上限がかかります。
復帰までの期間は、研究や医療機関によって報告に幅があります。この記事では、手術の位置づけ、費用の組み立て、保険や控除の考え方、復帰の見通しを、公的機関と論文の記述にもとづいて整理します。診断や治療の推奨に代わるものではありません。手術が適するか、費用がいくらかかるかは、スポーツ整形外科などの担当医に確認してください。
目次
要点は次の4つです。
費用は医療機関、入院日数、個室を使うか、加入する健康保険の区分によって変わります。ここで示す数字は公開されている例と制度の説明で、あなたの自己負担額をそのまま示すものではありません。
「野球肘」は、投球で肘に負担がかかって起きる障害の総称です。日本整形外科学会は、障害が起きる場所を肘の外側、内側、後方に分けて説明しています。外側では骨や軟骨がはがれたり傷んだりし、内側では靱帯、腱、軟骨が傷みます。治療の基本は、投球をやめて肘を安静にする保存的な治療です。
トミー・ジョン手術は、この中の内側で、UCLが切れたり傷んだりした場合の手術です。成長期の子どもに多い内側上顆の障害や、外側の離断性骨軟骨炎の治療とは別のものです。UCL損傷は、主に骨の成長が終わった選手で問題になるとされます。
成長期の肘の障害は、決して珍しいものではありません。大阪の研究グループが、6歳から17歳の野球選手4,249人に超音波検査を行った報告があります(Otoshiら、Orthopaedic Journal of Sports Medicine、2017年)。肘の痛みの経験がある選手は54.3%、投球側の内側上顆に変化が見られた選手は52.9%、上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎は2.2%でした。このように、野球肘には複数の種類があり、手術が必要になる状態はその一部にすぎません。

肘の内側が痛む、投げるときに違和感がある、という段階で自己判断せず、早めに整形外科を受診してください。診断にはX線検査やMRI検査が使われ、復帰の時期は主治医と相談して決めるとされています。
手術では、傷んだUCLの代わりに、自分の体の別の部位から採った腱を移植して靱帯をつくり直します。腱は、前腕の長掌筋腱が最もよく使われ、太ももの腱などが使われることもあります。移植した腱を、上腕骨と尺骨にあけた小さなトンネルに通して固定します。
固定の方法や腱の通し方には複数の術式があります。国内では、伊藤法を改良した方法が報告されています。慶友整形外科病院の高橋氏と古島氏は、腱にひねりを加える伊藤・古島法で98肘を手術した成績を報告しました(整形・災害外科 68巻9号、2025年)。94.9%が「Excellent」の成績で、平均の競技復帰は9.8か月と記されています。ただし、これは1施設の抄録に基づく成績で、「Excellent」の基準や対象者の条件は、原文で確認する必要があります。復帰率そのものではない点にも注意してください。
東京や長野などでクリニックを展開するAR-Ex Medical Groupの公開ページ(肘内側側副靭帯再建術)には、次の目安が載っています。
これは1つの医療機関の目安です。手術時間や入院日数、術後の固定の方法は、病院や術式、患者の状態で異なります。
病院が費用の概算まで公開している例は多くありません。今回確認できたのは、AR-Exの公開ページにある「健康保険3割負担の場合の自己負担は25万〜40万円程度の目安」という記載です。このページは、保険診療であることと、高額療養費制度の申請で負担を軽減できることも述べています。ただし、入院費、食事代、差額ベッド代をどこまで含む金額かは、ページから読み取れません。ほかの病院は、手術名と入院日数をもとに、病院ごとに見積りを出します。
米国など海外の費用は、公的な資料で裏づけられる金額を確認できなかったため、この記事では取り上げません。
自己負担の総額=保険診療の自己負担(高額療養費で上限あり)+食事代+差額ベッド代+保険外の費用+通院、リハビリの費用+交通費、付き添いの費用
手術と入院は、月ごとに高額療養費の上限が適用されます。手術を月末に受けると、入院が2か月にまたがり、それぞれの月に自己負担の上限がかかることがあります。入院日の調整は、病院の窓口やソーシャルワーカーに相談できます。
高額療養費制度は、1か月の保険診療の自己負担が上限を超えた分を、あとで払い戻す、または窓口で上限までにとどめる仕組みです。年齢を問わず対象で、上限額は年齢と所得の区分で決まります。厚生労働省のページには、年収約370万〜510万円の70歳未満の人が、医療費100万円の場合に自己負担が約9万3,000円になるという例が示されています。
この制度は2026年8月から見直しがあり、年間の上限が新たに設けられました。区分ごとの上限額は変更されることがあるため、あなたの区分と最新の上限額は、加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)の窓口で確認してください。
窓口での支払いを上限までにとどめるには、次のどちらかを使います(協会けんぽ)。
注意点は3つあります。差額ベッド代など保険外の負担と、入院中の食事代は対象外です。複数の医療機関にかかった場合は、医療機関ごとに計算します。同じ病院でも、入院と外来は別々に計算し、合算できません。
1年間に支払った医療費が一定額を超えると、確定申告で所得税の控除を受けられる場合があります。国税庁のNo.1120によると、控除額は「支払った医療費から、保険金などで補てんされる金額を引き、さらに10万円(総所得金額等が200万円未満なら、その5%)を引いた額」で、上限は200万円です。高額療養費で戻った金額は、補てんされる金額として差し引かれます。
そのため、高額療養費を使って自己負担が数万円から10万円程度に収まる場合は、手術の費用だけでは10万円を超えず、控除が出ないことがあります。一方、リハビリの通院費や、同じ年の家族の医療費をあわせると超える場合もあります。対象になる範囲は国税庁のNo.1122に示されています。通院の公共交通機関の費用は対象で、自家用車のガソリン代や駐車場代は対象外です。控除を受けるには、明細書の提出が必要で、領収書は自宅で保管します。
学校の管理下での事故には、日本スポーツ振興センターの災害共済給付があります。給付額は療養に要した費用の4/10です(日本スポーツ振興センター)。ただし、対象は学校の管理下の災害です。オーバーユースによる障害がこの対象になるか、学校外のクラブチームでの活動が対象になるかは、個別に異なります。在籍する学校と、給付を扱う窓口で確認してください。
加入している傷害保険、スポーツ保険、医療保険が給付の対象になるかは、契約内容によって異なります。契約書の約款を確認し、手術を受ける前に保険会社へ問い合わせておくと安心です。
子ども医療費助成は、市区町村が行う制度です。こども家庭庁の調査(令和6年4月1日現在)によると、すべての都道府県と市区町村が実施しており、市区町村では通院も入院も高校生年代(18歳年度末)までが最も多い区分でした(こども家庭庁)。ただし、助成の内容は自治体ごとに異なります。所得制限や自己負担の有無は、住んでいる自治体に確認してください。
復帰の見通しについては、系統的レビューがあります。Thomasらは29の研究をまとめ、メジャーリーグの投手が初回の再建手術後に投球に復帰した割合を80〜97%、期間をおよそ12か月と報告しました。元の競技レベルに戻れた割合は67〜87%で、期間はおよそ15か月でした(Orthopaedic Journal of Sports Medicine、2020年)。再手術では、投球への復帰が77〜85%、元のレベルへの復帰が55〜78%でした。
この数字は、メジャーリーグの投手を対象にした結果です。「手術の成功率」ではなく、アマチュアの選手や日本の選手にそのまま当てはまるものでもありません。一部の古い解説にある「成功率80〜97%」「失敗は3〜10%」「復帰できない確率は30%」といった数字は、前提となる対象や定義が示されていないため、この記事では使いません。
リハビリは、数か月の固定や安静のあと、肘の可動域と握力を戻すことから始め、段階的に投球へ進みます。AR-Exの目安では、軽い投球動作は術後3〜5か月、マウンドでの本格的な投球は平均9か月、完全な競技復帰は平均12〜18か月でした。慶友整形外科病院の報告では、平均9.8か月です。同じ手術でも、病院や選手の条件によって、期間の見立ては異なります。
リハビリ期間中は、通院の交通費、理学療法の費用、仕事や学業を休む影響も考える必要があります。長期の通院が続くため、手術前に、リハビリを行う場所と頻度、1回あたりの自己負担を病院に聞いておきましょう。復帰時期を保証できるものではなく、再断裂や神経のしびれなどが起こる可能性もあります。
成長期の肘の痛みの多くは、手術ではなく、休養と投球の調整で対応します。日本整形外科学会も、保存的な治療を最優先とし、投球をやめて肘を休めることが大切だと説明しています。若い選手が早い段階で手術を選ぶのが当然だと考えるのは適切ではありません。
痛みがあるのに投げ続けると、悪化するおそれがあります。違和感の段階で、投球を止めて整形外科を受診してください。野球肘検診を行っている地域もあります。投球数や休養日の目安は、所属する団体やリーグの決まりと、医師の指導に従ってください。
手術を検討する場合は、次の点を医師に確認しましょう。
病院の支払いは、退院時に病室で行うのか、受付や自動精算機で行うのか、クレジットカードが使えるかを事前に確認しておくと、術後に慌てずに済みます。カードの分割払いやリボ払いは、手数料がかかる場合があるため、条件を確認してください。
費用の準備には、貯蓄などの自己資金、高額療養費の限度額適用(窓口で上限までにとどめる方法)、医療機関が提携するローン、銀行の医療ローンやフリーローンなどがあります。ローンを使う場合は、月額ではなく総支払額で比べます。
元利均等返済の月額は、次の式で求められます。
月額=借入額×月利÷(1−(1+月利)の−回数乗) 月利=年率÷12 総支払額=月額×回数
たとえば、30万円を年率10%、12回で借りると仮定すると、月額は約26,375円、総支払額は約316,497円で、利息分は約16,497円です。年率10%は計算のための仮定で、実際の商品の金利ではありません。条件は商品と審査によって変わり、利用できるかどうかは保証されません。
銀行の医療ローンは、審査が厳しい場合がありますが、金利が抑えられる商品もあります。提携ローンは手続きが簡単でも、金利や手数料が高いことがあります。契約前に、実質年率と総支払額、繰上げ返済の条件を書面で確認してください。
手術やリハビリの費用の準備に、ローンを検討する人もいるでしょう。クラウドローンは、借りたい人が目的や希望額を登録すると、融資できる金融機関から提案が届く、融資マッチングのサービスです。複数の提案を並べて、総支払額で比べられます。利用できるかどうかや条件は、審査と各金融機関の判断によります。まずは公的制度と自己資金の範囲を整理したうえで、必要な場合に確認してみてください。
確認日:2026年10月7日。制度や医療機関の情報は変更されることがあります。
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トミージョン手術についての解説記事は、野球選手やスポーツ愛好者にとって必読の内容です。この手術は肘の損傷を修復するためのもので、特に投球動作が多いアスリートに頻繁に見られます。費用相場、手術方法、そしてメリットやデメリットについて詳細に説明されており、手術を検討している人々が知っておくべき重要な情報が満載です。特に高校生以上のアスリートにとって、将来的なキャリアに影響を与えうる選択について、理解を深めることができるでしょう。