相続税を期限までに現金で一括納付できない場合、まず検討するのは税務署の許可を受けて分割で納める延納です。2026年10月15日時点の国税庁の掲載では、不動産が多い相続の延納にかかる利子税は令和8年に年0.6%(不動産等に係る部分)で、この記事の試算で仮定したローン金利(年2〜4%)より総負担は小さくなります。ただし、延納できるのは手元の現預金で払えない金額までで、担保の提供と税務署の審査が必要です。延納でも払えない場合は物納を、延納の対象にならない少額の不足や、売却までのつなぎには金融機関からの借入を検討します。この記事では、延納・物納・借入の条件と総負担を試算で比べます。
目次
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。国税庁のタックスアンサーNo.4205は、税金は金銭で一度に納めるのが原則で、相続税には特別な納税方法として延納と物納がある、と説明しています。延納や物納を希望する人は、申告書の提出期限までに申請書などを税務署に提出し、許可を受ける必要があります。
延納・物納は申告期限までの申請が前提です。現金が足りないと分かった時点で、どの方法を使うかを決めて準備を始めてください。
主な選択肢は次の4つです。延納と物納は税務署長が許可するかどうかを判断します。借入は金融機関が審査します。どの方法も、申請すれば必ず使えるものではありません。
表1 相続税の納付資金が足りないときの主な方法
| 方法 | 使える条件の要点 | 主な費用 | 判断する人 |
|---|---|---|---|
| 延納(分割納付) | 税額10万円超、金銭で納付困難な金額の範囲内、原則として担保が必要 | 利子税(令和8年は年0.2〜1.0%の特例割合) | 税務署長 |
| 物納(財産で納付) | 延納によっても金銭で納付困難な金額の範囲内、物納に適した相続財産 | 財産の整備費用、許可までの維持費、一定期間の利子税 | 税務署長 |
| 金融機関からの借入 | 各金融機関の審査基準による | 借入金利、手数料など(商品ごとに異なる) | 金融機関 |
| 相続財産の売却 | 買い手が見つかり、相続人の間で合意できること | 仲介手数料、譲渡所得税など | 相続人 |
出典:国税庁 No.4211 相続税の延納、国税庁 No.4214 相続税の物納(2026年10月15日確認)。売却と借入の費用は一般的な項目の例示です。
なお、相続税はクレジットカードでも納付できますが、No.4205によると納付できる金額は1,000万円未満、かつカードの決済可能額以下です。納付税額に応じた決済手数料もかかります。
国税庁のNo.4211によると、延納を申請できるのは次の要件をすべて満たす場合です。
担保を不要とする条件は、相続税法第38条第4項にも同じ内容で定められています。延滞税・加算税・連帯納付責任額は延納の対象になりません。
延納できる金額には上限があります。国税庁「相続税・贈与税の延納の手引」(令和7年4月1日以後相続開始分)は、延納許可限度額を次の順に計算すると説明しています。
たとえば相続税が2,000万円で、生活費などを残しても500万円は現金で払える人は、延納できる上限は1,500万円になります。手元資金で払える部分は延納できません。「預金はあるが減らしたくない」という理由では延納の対象にならない点に注意してください。実際の計算は、延納申請書の別紙「金銭納付を困難とする理由書」で行い、根拠資料の写しを添付します。
担保にできるのは、国債・地方債、税務署長が確実と認める有価証券、土地、保険を付した建物、確実と認められる保証人の保証などです。相続した財産に限らず、相続人がもともと持っている財産や第三者の財産も担保にできます。手引によると、土地の見積価額は時価の8割以内、建物は7割以内で評価されます。必要な担保額は「延納税額+第1回の分納期間の利子税×3」です。
共同相続人の間で所有権を争っている財産、売却できる見込みのない財産、共有持分(共有者全員が持分全部を出す場合を除く)は担保として不適格です。建物を担保にした場合は、延納期間中ずっと火災保険に加入し、税務署長などを質権者とする手続きをしなければなりません。
担保提供関係書類が期限に間に合わないときは、届出により1回3か月、最長6か月まで提出期限を延ばせます。税務署長は延納申請期限から3か月以内に許可か却下を決めます。担保の状況によっては、最長6か月まで延びることがあります。
延納には借入にない利点もあります。相続人は通常、ほかの相続人が相続税を納めない場合に、受けた利益の範囲で代わりに納める連帯納付義務を負います。手引によると、延納の許可を受けた相続税額はこの連帯納付義務の対象から外れます。
延納できる最長期間と利子税の割合は、課税相続財産のうち「不動産等」が占める割合で決まります。不動産等とは、不動産、立木、不動産の上に存する権利、事業用の減価償却資産、特定同族会社の株式・出資を指します。不動産の割合が高いほど、期間は長く、割合は低い区分です。
表2 相続税の延納期間と利子税の割合(令和8年の特例割合)
| 不動産等の割合 | 区分 | 延納期間(最高) | 延納利子税割合(年割合) | 令和8年の特例割合(年) |
|---|---|---|---|---|
| 75%以上 | ①動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| ②不動産等に係る延納相続税額(③を除く) | 20年 | 3.6% | 0.6% | |
| ③森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.2% | |
| 50%以上75%未満 | ④動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| ⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除く) | 15年 | 3.6% | 0.6% | |
| ⑥森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.2% | |
| 50%未満 | ⑦一般の延納相続税額(⑧⑨⑩を除く) | 5年 | 6.0% | 1.0% |
| ⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額 | 5年 | 4.8% | 0.8% | |
| ⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.7% | |
| ⑩森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額 | 5年 | 1.2% | 0.2% |
出典:国税庁 No.4211 相続税の延納(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月15日確認)。特例割合は令和8年1月1日現在の延納特例基準割合1.3%で計算された値です。
特例割合は「延納利子税割合×延納特例基準割合÷7.3%」で計算し、0.1%未満を切り捨てます。延納特例基準割合は、銀行の新規短期貸出約定平均金利をもとに財務大臣が毎年告示する割合に0.5%を加えたものです。令和8年は1.3%なので、不動産等に係る部分は3.6%×1.3÷7.3=0.64…で0.6%になります。特例割合は毎年変わります。国税庁も、延納申請の際に所轄税務署で確認するよう案内しています。
延納税額のうち「不動産等に係る延納相続税額」は、相続税額に不動産等の割合を掛けた額と、延納税額のいずれか少ない額です(相続税法施行令第14条)。残りは「動産等に係る延納相続税額」として、表の①や④の期間と割合が適用されます。
少額の延納には期間の上限もあります。手引によると、延納税額が150万円未満(表の②③⑥に当たる場合は200万円未満)なら、延納期間は延納税額を10万円で割った年数(切り上げ)が限度です。たとえば延納税額125万円なら13年までです。
ここからは、延納の利子税と借入の利息を同じ借入額・期間で比べます。数字はすべて仮定に基づく試算で、実際の利子税や適用金利を示すものではありません。
前提は次のとおりです。納付すべき相続税額2,000万円、課税相続財産に占める不動産等の割合80%、現金で納付できる額500万円とします。不動産等に係る相続税額は2,000万円×80%=1,600万円です。延納税額1,500万円はこれより少ないので、1,500万円全額が表2の②(最長20年、令和8年の特例割合0.6%)に当たります。
延納の分納税額は、延納税額を年数で割った額です(相続税法第38条第2項)。利子税は、手引の計算式「本税の残高×利子税の割合×日数÷365」で分納期間ごとに計算します。この試算では、分納期間をすべて365日とし、0.6%が全期間変わらないと仮定しました。1万円未満と100円未満の切り捨ても手引どおり適用しています。
10年延納の場合、毎年150万円ずつ元本を納めます。1年目の利子税は1,500万円×0.6%=9万円、2年目は1,350万円×0.6%=8万1,000円と減っていき、10年間の合計は49万5,000円です。20年延納では毎年75万円を納め、利子税の合計は94万5,000円です。
借入側は、年2%・3%・4%の金利を仮定し、毎月返済の元利均等返済で計算しました。特定の金融機関の金利ではありません。
表3 1,500万円を延納する場合と借り入れる場合の利息負担(試算)
| 方法・前提 | 期間 | 毎回の支払い | 利子税・利息の合計 |
|---|---|---|---|
| 延納(特例割合0.6%で一定と仮定) | 10年 | 年1回、元本150万円+利子税 | 49万5,000円 |
| 延納(特例割合0.6%で一定と仮定) | 20年 | 年1回、元本75万円+利子税 | 94万5,000円 |
| 延納(本則3.6%の場合) | 10年 | 年1回、元本150万円+利子税 | 297万円 |
| 延納(本則3.6%の場合) | 20年 | 年1回、元本75万円+利子税 | 567万円 |
| 借入 年2%(仮定) | 10年 | 月13万8,020円 | 156万2,400円 |
| 借入 年3%(仮定) | 10年 | 月14万4,841円 | 238万920円 |
| 借入 年3%(仮定) | 20年 | 月8万3,190円 | 496万5,600円 |
| 借入 年4%(仮定) | 10年 | 月15万1,868円 | 322万4,160円 |
出典:延納の計算方法と割合は国税庁 延納の手引とNo.4211(2026年10月15日確認)。借入金利は仮定で、計算はPythonで検算しています。
令和8年の特例割合が続くと仮定すれば、延納の利子税は年2%の借入の利息より小さくなります。特例割合は延納特例基準割合が7.3%未満の年に適用されるもので、本則の3.6%が上限の目安です。本則の場合でも、10年で297万円となり、年4%の借入の利息と近い水準です。
この比較には限界があります。延納は年1回の元本均等払いで、借入は月払いの元利均等です。延納は1年分の元本をまとめて払うため、年に一度150万円や75万円の資金を用意する必要があります。借入の利息には、事務手数料や保証料、担保を設定する場合の登記費用は含めていません。
次に、不足額が小さい場合です。延納税額90万円、延納期間3年とします。100万円以下・3年以下なので担保は不要です。不動産等の割合が75%以上で全額が表2の②に当たると仮定し、特例割合0.6%で計算します。毎年30万円を納め、利子税は1年目5,400円、2年目3,600円、3年目1,800円で、合計1万800円です。
同じ90万円を36回の元利均等返済で借りる場合、年6%なら利息は8万5,680円、年9%なら13万320円(月2万8,620円)、年12%なら17万6,148円です。金利はいずれも仮定の値で計算しました。
金額だけを比べると延納の負担は小さくなります。ただし、前述のとおり預金で払える部分は延納できず、許可されない可能性もあります。借入は、こうした理由で延納を使えない場合に比べる選択肢です。
延納には、担保提供関係書類の作成や相続人の間での担保財産の合意といった手間があります。分納税額を滞納したり、増担保の求めに応じなかったりすると、延納許可が取り消されることがあります。借入でも、返済が遅れれば遅延損害金が発生します。延滞時の扱いはローンの遅延損害金の計算で説明しています。
物納は、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に限り、その困難な金額まで認められます。国税庁のNo.4214によると、物納に充てられるのは、相続税の課税価格の計算の基礎となった国内の財産で、次の順位があります。
後の順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合や、先の順位に適当な財産がない場合に限って使えます。抵当権が付いている不動産、権利の帰属に争いがある不動産、境界が明らかでない土地などは「管理処分不適格財産」として物納できません。
国が受け取るときの価額(収納価額)は、原則として相続税の課税価格の計算に使った価額です。小規模宅地等の特例を適用した土地は、特例適用後の低い価額になります。時価で売れる土地を評価額で手放すことになるため、売却した場合の手取りとも比べてください。
物納の審査は申請期限から3か月以内が原則ですが、財産の状況によっては最長9か月延長されます。国税庁のチラシによると、境界標の設置や測量、登記などの整備費用と、許可までの固定資産税や修繕費は申請者の負担です。書類の訂正や収納の措置を行う期間には利子税もかかります。
延納の許可を受けた後に延納を続けるのが難しくなった場合は、申告期限から10年以内に限り、分納期限が来ていない部分を物納に切り替える「特定物納」を申請できます。
判断の順番は、まず現金で払える額を確定し、残りについて延納、それでも難しければ物納、という流れです。借入や売却は、これらと並べて比べます。
相続した不動産を売る場合は、国税庁のNo.3267の「取得費加算の特例」も確認してください。相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、支払った相続税の一部を譲渡所得の計算で取得費に加えられます。申告期限は相続開始から10か月なので、おおむね相続開始から3年10か月が目安です。適用には確定申告が必要です。
葬儀費用や当面の生活費で預金が必要な場合は、遺産分割前の預貯金の払戻し制度も使えます。法務省の説明によると、各相続人は口座ごとに「相続開始時の預貯金額×3分の1×自分の法定相続分」まで、ほかの相続人の同意なしに払戻しを受けられます。同じ金融機関からは150万円が上限です。
延納や物納の申請をせずに期限を過ぎると、法定納期限の翌日から納付する日まで延滞税がかかります。国税庁のNo.9205によると、令和8年の割合は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8%、それ以降は年9.1%です。
試算として、90万円を納期限から約3か月遅れて納めた場合を考えます。最初の61日を2.8%、残りの31日を9.1%とすると、900,000円×2.8%×61÷365+900,000円×9.1%×31÷365=1万1,167円で、100円未満を切り捨てて1万1,100円です。期間が延びるほど9.1%の部分が増えます。払えないと分かった時点で、期限前に税務署へ相談してください。
延納・物納の可否は税務署長が判断します。延納許可限度額の計算も財産と家族の状況で変わるため、個別の判断は所轄の税務署か税理士に相談してください。
金融機関から借りる場合は、金利だけでなく、返済期間、毎月の返済額、手数料や保証料、担保の有無を合わせて比べてください。試算1のように1,000万円を超える不足を不動産担保ローンなどで賄う場合は、相続した不動産に担保を設定する手続きや、相続人の間の合意も必要になります。返済方法による総額の違いは元利均等返済と元金均等返済の比較で詳しく試算しています。
不足額が比較的少なく、延納の対象にならない部分を無担保のフリーローンで賄う場面では、複数の金融機関の条件を並べて比べると判断しやすくなります。CrowdLoanは、複数の金融機関からの提案を比べるサービスです。CrowdLoanは不動産担保融資を扱うサービスではありません。本審査の結果や適用金利、借入の可否は各金融機関が判断し、個人によって異なります。
同じとは限りません。特例割合は、各分納期間が始まる年の延納特例基準割合で計算するため、財務大臣の告示に応じて年ごとに変わります。
許可されるとは限りません。税務署長が、金銭で納付することが困難かどうか、担保が適当かどうかを調べて判断します。担保が適当でないときは、変更を求められることがあります。
使えます。国税庁のNo.4211は、相続した財産に限らず、相続人の固有の財産や、共同相続人・第三者の財産も担保にできると説明しています。第三者の財産を使う場合は、所有者の承諾書などが必要です。
手引は、分納期限より早く納める場合は利子税の額が変わることがあるため、税務署に連絡するよう案内しています。利子税は日割りで、その回の分納期限までの日数で計算されているためです。
令和7年4月1日以後に相続が始まった場合は、「令和7年4月1日以後相続開始分」の手引です。令和7年度の税制改正で延納許可限度額と物納許可限度額の計算方法が変わったため、それより前の相続は旧版の手引が対象になります。
調査日:2026年10月15日。利子税の特例割合と延滞税の割合は令和8年の値です。試算の借入金利は仮定で、特定の金融機関の金利ではありません。
「どの銀行が融資をしてくれるか分からない」をクラウドローンが解決
クラウドローン(https://crowdloan.jp/)は、個人が銀行から低金利でマイカーローン、教育ローンなどの融資を受けられる国内唯一のプラットフォームです。
融資の目的や時期、金額などをクラウドローンに登録すると、各銀行が融資可能な金額や金利のプランの直接提案してくれます。時間と労力をかけずに複数の銀行からより条件のよい融資を見つけることができます。
詳しくはこちら
クラウドローンとは
“借りたい”を登録して
お得な提案を待つだけ
融資をしたい銀行から、直接プラン提案を受けることで、
資金を必要としている一人でも多くの人に、融資の機会を提供します。