売上や受注が増えると、利益が出ていても手元の現金は先に減ります。売上代金の入金は数か月後なのに、材料費・外注費・人件費は先に払うからです。この記事の試算では、月商1,000万円の事業が受注増で月商1,500万円になると、毎月195万円の利益が出ていても2か月目の月末に現金が85万円足りなくなります。
この不足分が増加運転資金です。対策は、まず月次の資金繰り表で不足する月と金額を特定することです。そのうえで、回収条件や前受金の交渉、支払条件と在庫の見直しを進めます。残った不足分を借入で埋め、ファクタリングは条件を確かめてから検討する、という順番が基本です。
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中小機構のJ-Net21は、黒字倒産を「帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な資金が不足し、倒産してしまうこと」と説明しています。企業間取引では、商品を販売しても代金を受け取れるのが数か月後になる場合があります。その間に仕入代金や人件費、借入返済の資金が足りなくなるわけです。
J-Net21は、成長期の会社ほどこの状態に陥りやすいとも指摘しています。急に売上が伸びると、売掛金や在庫が膨らむためです。別のQ&Aでは、売上を増やして穴埋めしようとすると、先行する支払が急増して資金繰りがかえって悪化する場合があるとしています。
増加運転資金を残高から計算する式は、前日公開の運転資金の借入目安は?所要運転資金の計算式と借りる額の決め方を数値例で解説で扱っています。この記事では式の説明を省き、月ごとの現金の動きで不足が生まれる様子を確かめます。
想定するのは、受注生産の製造業です。増加前の月商は1,000万円で、1か月目から新しい取引先の受注が加わり、月商1,500万円になるとします。売上代金は月末締め翌々月末の入金で、売上の2か月後に現金が入ります。
材料費は売上の40%です。生産の前月に仕入れて翌月末に払うため、支払は売上を計上した月に来ます。外注費は売上の25%で、支払は当月作業分の翌月末です。人件費は増加前の月200万円から、増員と残業で月250万円に増えるとします。
そのほかの経費は月80万円、既存借入の元金返済は月50万円です。0か月目の月末の現金残高は500万円とします。税金・減価償却・既存借入の利息は、簡略化のため考えません。
月末残高は「前月末残高+入金-支払」で計算します。この形はJ-Net21が示す資金繰り表の「前月繰越金+差引過不足-借入金返済」と同じ構造です。金額はPythonで検算し、すべて万円単位で端数は出ていません。
| 月 | 売上 | 営業利益 | 入金 | 支払(返済込み) | 月末残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 1,500万円 | 195万円 | 1,000万円 | 1,230万円 | 270万円 |
| 2か月目 | 1,500万円 | 195万円 | 1,000万円 | 1,355万円 | −85万円 |
| 3か月目 | 1,500万円 | 195万円 | 1,500万円 | 1,355万円 | 60万円 |
| 4か月目 | 1,500万円 | 195万円 | 1,500万円 | 1,355万円 | 205万円 |
| 5か月目 | 1,500万円 | 195万円 | 1,500万円 | 1,355万円 | 350万円 |
| 6か月目 | 1,500万円 | 195万円 | 1,500万円 | 1,355万円 | 495万円 |
1か月目と2か月目の入金は、増加前の月商1,000万円の回収分です。一方で支払は、1か月目から増えた売上に合わせて膨らみます。2か月目の月末には残高が−85万円となり、この試算では支払ができません。月の途中では入金と支払の日がずれるので、実際の資金繰りはさらに厳しくなることがあります。
2か月間の営業利益は合計390万円なのに、現金は585万円減りました。差の大部分は、2か月分の売掛金の増加1,000万円から未払の外注費の増加125万円を引いた875万円です。残りの100万円は既存借入の返済です。3か月目からは入金が追いつき、毎月145万円ずつ残高が増えます。それでも残高が受注前の500万円近くに戻るのは6か月目です。
J-Net21は、資金ショートが迫ったときの順番を示しています。最初の一歩は、資金繰り表で、いつ、いくら不足するかを把握することです。次に売掛金の早期回収や在庫の換金、支払条件の見直しで手元の現金を確保します。経費削減などの収益改善は、その後に並行して進める位置づけです。
| シナリオ(基本の仮定に追加) | 最も少ない月末残高 |
|---|---|
| 対策なし | −85万円(2か月目) |
| 新規取引先の増加分500万円だけを翌月末回収にする | 270万円(1か月目) |
| 1か月目に300万円を借りる(年4.05%、当面は利息のみと仮定) | 約214万円(2か月目) |
回収短縮のシナリオでは、既存の取引先の回収条件は翌々月末のまま変えていません。借入のシナリオでは、2か月目から月10,125円の利息を払うとしました。利息は円未満を切り捨てています。
新しい大口の受注では、着手金や前受金を受け取れる取引形態にする交渉も有効です。表のとおり、増加分だけでも回収を1か月早めれば、この試算では借りなくても不足は出ません。ただし、J-Net21も創業間もない会社が有利な決済条件を結ぶのは難しいとしています。相手が応じるかは取引先との関係次第です。
自社が下請として受注する側なら、取引の条件も確認しましょう。2026年1月1日に施行された取適法(改正後の下請法)では、対象取引の代金について手形払いが禁止されました。支払期日は、物品等を受領した日から60日以内で定める必要があります。対象かどうかは取引の内容と、資本金または従業員数の基準で決まります。
仕入先や外注先への支払期日の延長は、事前に事情を説明し、合意を得ることが前提です。支払の遅れは自社の信用に関わるため、黙って遅らせてはいけません。在庫は現金化に時間がかかるため、受注増に合わせて材料を多めに抱えすぎないよう管理します。
借りる額は、資金繰り表で出た最大の不足額に余裕を足して決めます。日本政策金融公庫の国民生活事業には、ほとんどの業種の中小企業が使える一般貸付があります。運転資金の融資限度額は4,800万円です。返済期間は5年以内(特に必要な場合7年以内)、うち据置期間は1年以内とされています。
上の試算の年4.05%は、公庫の基準利率(無担保・税務申告2期以上、令和8年10月1日現在)の下限を仮定として置いた値です。業種や経営内容によっては利用できない場合があります。審査の結果、希望どおりの金額や条件で借りられない場合もあります。
返済の原資は、受注増で増えた利益です。この試算では3か月目以降、毎月145万円の現金が残ります。月々の返済額は事業融資の返済シミュレーションで試算できます。受注が続く見込みと返済額を突き合わせ、必要以上に借りないようにしてください。
金融庁によると、ファクタリングは売掛債権を期日前に手数料を差し引いて買い取るサービスで、法的には債権の売買です。一方で、ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者も確認されています。買取代金が債権額に比べて著しく低い場合などは、偽装ファクタリングの疑いがあるとされています。手数料と借入金利の比べ方についてはファクタリングとビジネスローンの違いをご覧ください。
J-Net21は資金繰り表を、一定期間の現金収入と現金支出を分類・集計した表と説明しています。作っておけば、資金が足りなくなる前に借入や支払サイトの調整に動けるというのがJ-Net21の説明です。日本政策金融公庫も、資金繰り表と簡易版、記入例の書式を公開しています。
大きな受注の話が来たら、引き受ける前に次の3点を表に入れてみてください。新規取引先の回収サイト、増える材料・外注・人件費の支払月、既存借入の返済額です。残高が最も少なくなる月と金額がわかれば、交渉で縮める分と借りる分を分けて準備できます。
資金繰り表で不足額がわかったら、公的制度と並べて民間金融機関の提案も比べられます。CrowdLoanが運営するTasukari(タスカリ)は、小規模事業者向けの融資マッチングサービスで、保証会社の事前審査の結果を見た複数の銀行から届く融資条件を、金利や返済期間で比べて選べます。診断と事前審査は無料ですが、審査は保証会社と金融機関が行い、融資の可否・金利・提案の数を約束するものではありません。
調査日:2026年10月9日。融資制度の限度額・利率や法令の運用は、今後変わることがあります。利用前に各機関の最新情報を確認してください。
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